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2021年1月 7日 (木)

パラダイス変化と谷崎潤一郎の洞察力

 COVID-19のパンデミックは「グローバル」「分断」「日本の存在の後退」と言うパラダイムの変化に直面している。

「100分de名著 谷崎潤一郎」島田雅彦 NHK出版の読書感想で目からウロコだ。

タカダカ、600円のEテレのNHKテキストである。これほど、コロナ時代の洞察を支える示唆に富んだ評論は無い。

明治時代のパラダイス変化の中に生き、富国強兵、殖産興業、立身出世の男性社会中心。その資本主義から一線を置き、大正時代は、軍国主義と変化する中にも一線から退き、社会を見つめ直して小説を書き続けてきた。それが、女性を中心に据え、変態(痴)と言う人間の本能を成熟させた。

一方、江戸文化、美意識を賛美する政略は、関東大震災後、大阪(関西圏)から「超高齢者社会」の生涯の生き方を先取りしている。社会から少しズラして、「悟り」など開かず、一生現役の無意識の本能を素にエロティシズムを描き続けた。それは、コロナ・パンデミックの時代の先取り。敢えて言えば、谷崎文学は、世の差別を生む資本主義的宗教に埋没することなく、美意識文化を異常なほどに洞察したのだろうか。

敢えて言えば、日本の文化がガラパゴスと言われるが、そこから発する日本の任天堂、ソニーのゲーム機であり、カラオケでもあり、漫画、アニメの世界ではなかろうか?さらには、ストッキング、コンドームまでもが、日本的美意識の中にある、と、谷崎潤一郎は主張するであろう。これからの世の中、分断、隔離される個人は退屈を紛らわせる日本の技術が、これからの社会を救うであろう、と。「どうだ、この発想は進歩主義からは生まれない」と、微笑んでいるのではなかろうか。

<読書>

「谷崎潤一郎を知っていますか」阿刀田高 新潮社

副題に「愛と美の巨人を読もう」となっている。前著の「夏目漱石を知っていますか」の続編である。残念なのは、漱石の時と比べ、筆者の意見が少なかった。筋書きをなぞるだけの作法であり、骨が無くなった。作風の評価表の漱石と比べ随分と甘い、と思う。痴の成熟と美の成熟の絡みを、もっと評論して欲しかった。

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